つらつら

日々の記録

読了本『紙の動物園』

ハヤカワの電書セールで購入していたケン・リュウの短編集『紙の動物園』を読んだ。

全ての短編で立ち上るのは“さみしさ”や“物悲しさ”。失ってしまった(もしくはこれから失ってしまう)存在への想い。それは「時間」や「宇宙」が大きなテーマであるSFととても相性が良い。読み始めてすぐ“喪失”の予感に備えるも、なお、さみしさを感じる作品群。

家でキングの『ペット・セマタリー』*1を話題にした時「かけがえのない存在を喪って、夢でも幽霊でもゾンビでも何でもいいから帰ってきて欲しい、という痛切で、ある意味普遍的といえる思い」をベースに稀代のストーリーテラーが紡ぎ出した物語だから怖いし切ないし面白い、という話になった。

ケン・リュウの短編集から感じた喪失感はそこまでの痛切さではなく、どこか村上春樹*2な軽やかで泥臭さのない美しい空白感だった。しかし、中国をルーツにもつケン・リュウならではの題材(『文字占い師』における台湾の二・二八大虐殺事件、『月へ』の中国でのキリスト教徒弾圧、『紙の動物園』の文化大革命など)における政治や国に翻弄され、過酷な運命を歩むことになった人の悲劇的展開も滑らかな語り口の物語となって読者である自分に流れ込んでくる。

もののあはれ』(なんと日本人が主人公)や『文字占い師』『結縄』のように漢字や文字、語ることについての短編が特に好みだった。セールで彼の他の短編集も買ってあるのでまた、読んでみる。

 

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

 

*1:映画タイトルは『ペット・セメタリー』

*2:一般的なイメージの…彼の初期作品群にあらわれてたような